今回の検定試験は、レベルの高い受験者が多かったようです。特に2級受験者についてそう感じました。準1級・1級受験にじゅうぶん準備できていらっしゃると思います。
ただ、1番の問題は時間の配分でしょう。限られた時間内でどれだけ実力を発揮できるか、です。記述問題ですばらしい訳をなさった方が、最後の3,4問は未解答で終わるという例もありました。
じっくり、丁寧な訳を目指すのも大事なことですが、ことばの選択と決断を迷いすぎず、素速くできることはプロ翻訳家にとって重要な条件です。訓練していただきたいと思います。
以下、正答率の低い問題を中心に講評を行いますので、ぜひ学習の参考になさってください。
He seems to have gotten out of the wrong ( ). He's shouting like a bear again.
I'll never be late again. ( ) my heart.
That horrible accident happened in our ( ) of the woods.
1:foot
2:sight
3:timber
4:neck
(解説)
体の部位名を用いた表現は数多くありますが、neck of the woods で「近所、界隈、地域」この表現は辞書のwoods に載っているようです。正答率60%。
Q7 次の文章の翻訳として最も適切なものを選びなさい。
Sad realities follow bright anticipations nearly as surely as a rainy day succeeds a golden sunrise.
1:悲しい現実の後には明るい未来が待っているものだ。雨があがって眩しい朝日が昇るように。
2:輝く朝日が顔を出すと、待っていたように雨が降ることがあるが、明るい希望もつらい現実に変わらないでほしいものだ。
3:悲しい現実と輝かしい希望はほとんど確実に交互にやってくる。止まない雨はないように。
4:眩しい朝日の後にも雨が降るのと同様、大いなる期待を抱いた結果、悲しい現実に見舞われるものだ。
(解説)
正答率が40%と低かったのは、「苦あれば楽あり」といった日本人になじみ深い格言を連想した方が多かったせいかもしれませんね。follow, succeed をしっかり捉えてください。
Q10 次の文章の下線部の翻訳として最も適切なものを選びなさい。
The rowers could not keep the boat in her course. It seemed as though, every moment, she would be dashed against the rocks and destroyed.
1:彼女には今にもその岩が落下して、彼女を押しつぶすのではないかと思えた。
2:今にも船が岩に突っ込んでバラバラになってしまいそうだった。
3:その女性は恐怖のあまり崖から身を躍らせ、岩に激突するかと思えた。
4:漕ぎ手は今にも船から振り落とされ、岩にぶつかって死ぬ目に遭うところだった。
(解説)
boat は代名詞 she で受けることが多いですね。正答率75%。
Q12-14
いずれも “The Great Gatsby” などの文学作品から出題したもので、即座には状況が掴みづらいかなと思いましたが、正答率はとても高くて感心しました。
Q15 次の日本語のうち言葉の使い方が正しいものを選びなさい。
1:おびただしい数の羊が牧場に放たれていた。
2:耳ざわりのいい言葉ですね。
3:退屈まぎれにテレビを見ていた。
4:鈴木様がまもなく、こちらにお見えなさいます。
A耳ざわり(耳障り)自体が「聞いていて気に障る」の意。B「退屈しのぎ」が正しい用法。C「お見えなさいます」→「お見えになります」
Q16-20
(16)〜(20)は概ねよくできていました。特に(19)の著作権に関しての問題は、ネットですぐ検索できる内容ではないにも拘わらず間違いが少なく、受験者の皆さんの常識、知識の深さを感じました。
次の文章を読んで問いに答えなさい。
The summer had been cool; but, as often happens after cool summers, the autumn proved unusually hot. It seemed as if the months had been playing a game, and had "changed places" all round (1); and as if September were determined to show that he knew how to make himself just as disagreeable as August, if only he chose to do so. All the last half of Cousin Helen's stay, the weather was excessively ( 2 ). She felt it very much, though the children did all they could to make her comfortable, with shaded rooms, and iced water, and fans. Every evening the boys would wheel her sofa out on the porch, in hopes of coolness; but it was of no use: the evenings were as warm as the days, and the yellow dust hanging in the air made the sunshine look thick and hot. A few bright leaves appeared on the trees, but they were wrinkled, and of an ugly color. Clover said she thought they had been boiled red like lobsters. Altogether, the month was a trying one, and the coming of October made little difference(3): still the dust continued, and the heat; and the wind, when it blew, had no refreshment in it, but seemed to have passed over some great furnace which had burned out of it(4) all life and flavor.
Q23 下線部3の翻訳として最も適切なものを選びなさい。
1:とにかく、その月は厳しい月でしたが、10月になってもほとんど変わりませんでした。
2:いずれにせよ、それは努力を要する月でしたが、10月になって少しばかり風向きが変わりました。
3:とにかく、その月には色々試してみましたが、10月になったのでまた少々違うことをやりました。
4:まったく、その月はひとりでの挑戦を強いられましたが、10月になっても状況はあまり変わりませんでした。
過酷な夏の暑さが10月になってもほとんど衰えなかったことを述べている文です。
“a trying one (=month)” の trying は「つらい、耐えがたい」。また、初歩的なことですが、”made little difference” は a little ではないのに注意してください。正答率70%。
Q24 下線部(4)の “it” が指すものを選びなさい。
1:the heat
2:the wind
3:some great furnace
4:October
これは問題作成者も選択肢に悩んだ問題だったのですが、英文の構成をよく考えれば代名詞it が指すのはやはり the wind でしょう。正答率25%。
Q26-30
(26)〜(30)もなかなか状況をイメージしにくい長文だったかと思いますが、全体としてかなりの好成績でした。長文読解は、全体のストーリーの内容・流れに添っているものを選ぶことが大事です。
記述式問題訳例
(1)
She was a practiced traveler and knew that the first impression made by fellow-passengers is usually contradicted by experience.
彼女は旅慣れていて、同乗者の第一印象は往々にして裏切られることは経験上、よくわかっていた。
a practiced traveler = 経験を積んだ旅行者、つまり旅慣れしている
(2)
He had long limbs and nicotine-stained fingers, reminiscent of those failed revolutionary intellectuals in nineteenth-century Russian novels.
彼の長い手足とニコチンの染みついた指は、19世紀のロシアの小説に登場する、革命の夢やぶれたインテリを思わせた。
reminiscent of ~ = 〜を連想させる、偲ばせる
(3)
For several months, he had been secreting away old things that he knew we wouldn't miss.
彼は数ヶ月をかけて、なくなっても(我々に)気づかれないような古い品々を密かに処分していたのだった。
誤訳がかなりありました。secrete away 〜 = どこか目につかないところに隠す。We wouldn’t miss = なくても(誰も)気にしない。
(4)
There, alone in the dimly lit room, was Muhammad Ali, then still in exile from boxing because of his anti-Vietnam views, working out on a heavy bag.
薄暗い部屋に一人いたのは、モハメド・アリだった。ベトナム戦争に反対したため当時まだボクシング界から追放されていた彼は、サンドバッグを一心不乱に打っていた。
英文は1文ですが、2文に分けると臨場感が出ると思います。 in exile from 〜 = 〜から追放されている。
(5)
There's nothing you're going to say that's going to make anybody happy when they're feeling shitty about losing somebody that they love.
恋人に去られて落ち込んでる奴に言ってやれる、気分を晴らせる言葉なんかないさ。
shitty(= ひどい、惨めな)のようなくだけた言葉を使った文なので、その雰囲気を出した訳文が望ましいですね。
(6)
Briefcase in his right hand, grocery bag with fresh vegetables and tinned salmon cradled in his left arm, he didn't dare move.
右手に書類鞄を持ち、左腕で野菜や鮭缶の入った買い物袋を抱えたまま、彼は身動きができなかった。
fresh vegetable となっているので「新鮮な野菜」という訳が多かったのですが、わざわざ「新鮮な」を付ける必要はないでしょう。せめて「生野菜」にしてください。それから、he didn’t dare move の解釈が分かれました。「(意志をもって)動こうとしなかった」と「動けなかった」です。この1文だけではどちらと判断しにくいかもしれませんが、「一歩も動けなかった」、「微動だにしなかった」くらいでもいいですね。
(7)
I couldn't have been gone for more than a few minutes, but in that time Gramma had fallen asleep on the sofa.
私がその場を離れていたのはほんの数分だったはずだが、その間におばあちゃんはソファの上で寝入ってしまっていた。
意外なほど誤訳がありました。I couldn’t have been gone for more than ~ は直訳すれば、「〜以上はそこを離れていたはずがない」
(8)
My life? It isn't easy to explain. It has not been the rip-roaring spectacular I fancied it would be, but neither have I burrowed around with the gophers.
【訳例1】「トム(の方)はおそらく終生ひとところに落ち着けないのではないか、という気がした。彼がそのように各地を転々としながら、心の底で求めているものは、もう二度と取り戻すことのできない過ぎし日のフットボール・ゲームの、心躍る波瀾万丈の展開のようなものではなかったろうか。」(村上春樹訳)
【訳例2】「トムは、敗色おおいがたいフットボールの試合などにただよう一種劇的な興奮を、むしろ憧れるかのように求めて永久にさまよい続ける男のような気がするのだ。」(野崎孝訳)
【訳例3】「トムのことを考えれば、今は昔となったフットボールの激動のドラマが恋しくて、ふらふら動き続けてもおかしくはないような気がした。」(小川孝義訳)
難解だったようです。出典は “The Great Gatsby”。講釈の代わりに、3名の訳文を例として引用させていただきます。比べてみてください。
(9)
I'm one those people who read the paper from beginning to end, in order, so it took me a while to get to the article in the regional news.
私は新聞を一面から順番どおりに読んでいくタイプなので、地方版のその記事に行きつくまでにいささか時間がかかった。
大きく間違った訳はありませんでした。
(10)
Bringing in weapons and ammunition under cover of night and using a spy ship disguised as a fishing vessel was not that difficult.
夜の闇にまぎれて銃器と弾薬を持ち込み、漁船に偽装した工作船を利用するのはそれほど困難なことではなかった。
a spy ship disguised as a fishing vessel = 漁船に見せかけた工作船(スパイ船)
(11)
As far as I can tell, you don't cut corners. You're very modest when it comes to the act of writing. And why? Because you like to write. I value that in you. It's the single most important quality for somebody who wants to be a writer.
僕の見る限りでは、君は手抜きをしない。(とりわけ)文章を書くという作業に対してとても謙虚だ。どうしてか?それは書くことが好きだからだ。僕はそこも評価している。作家を目指す人間にとっては何より大事な資質だからね。
まったくの誤訳はありませんでした。cut corners / cut (off) a corner = 手を抜く、近道する
(12)
Constipation was one of the things she hated most in the world, on par with despicable men who commit domestic violence and narrow-minded religious fundamentalists.
便秘は彼女がこの世界でもっとも嫌悪するものごとの一つだった。家庭内暴力をふるう卑劣な男たちや、偏狭な精神を持った宗教的原理主義者たちと同じくらい。
ちょっと思いがけない比喩を使った文ですが、難しい構文ではありませんね。ただ、時間が足りなくなったせいか、この問題あたり以降、未完成また無解答が多くなっています。
(13)
So, to quaint old Greenwich Village the art people soon came prowling, hunting for north windows and eighteenth-century gables and Dutch attics and low rents.
というわけで、やがて古風で個性的なグリニッジ・ヴィレッジに芸術家たちが押し寄せ、北向きの窓、18世紀の切妻屋根、オランダ風の屋根裏部屋、そして安い賃貸料を求めてうろつくようになった。
文のまとめ方に工夫が要ったのではないでしょうか。Greenwich Village を「グリニッジ村」としたものが多くありましたが「グリニッジ・ヴィレッジ」が通称でしょう。
(14)
If it had been a spider monkey or a bat, they might have been able to get away with it, but the killing of an elephant would have been too hard to cover up.
それがクモザルコウモリだったなら取り繕えたかもしれないが、象を一匹殺して隠し通すのはとうてい無理なはなしだろう。
仮定法過去の文ですが、間違いはあまりありませんでした。
(15)
It was a matter of chance that I should have rented a house in one of the strangest communities in North America. It was on that slender riotous island which extends itself due east of New York ? and where there are two unusual formations of land.
北米大陸の中でも、もっとも風変わりな地域社会のひとつに家を借りることになったのは、あくまでも偶然の所産だった。家はニューヨークのま東に位置する、細長く伸びた騒々しい島の上にあった。そこにはまた、尋常とはいいがたい地形をした二つの場所がある。
うまくまとめて表現するのに工夫が要る手強い文章です。